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球技大会開始8

「何渡された?」 「えっと……タオルと、はちみつレモン……か?」 興味津々で松村くんが清水くんの手元を覗く。タオルをめくればタッパーが姿を現した。 部活の試合後に、彼女が彼氏に渡しそうな中身だな。 清水くんはそのまま自然な流れで汗を拭いた。 「あー! なんだかんだ使ってんじゃーん!」 「なっ! うるせーな! 使わない方が申し訳ないだろ!」 「そう言いつつ? 言いつつ?」 松村くんは楽しそうに肩で清水くんを小突く。両手が塞がっているから反撃のできない清水くん。 「はちみつレモンも食えよ〜」 「これはお前らにやる」 「いやいや! せっかく蓮を想って作ったものなのに、貰えねーわ」 「茂……」 「オレはお似合いだと思うぜ!」 煌めく笑顔で松村くんは親指を立てる。対してやはり清水くんは嫌そうな顔。 清水くんに恋人ができるのは喜ばしいことだ。あんなによくしてもらった人に、幸福が訪れるんだから。 その相手が、姫野くん。 僕にはお似合いかどうかの判断は……できない。まだ、わからない。 「噂で有名なやつと付き合うかよ」 「んーまー、でも、そろそろ幸せになってもいんじゃね」 松村くんの声のトーンが、少し下がった気がする。 そろそろってどういうことだろう。昔、何かあったのだろうか。何か理由があって清水くんは恋人を作らないとか? そういうわけではないような気もするけれど……。 「幸せ、ねぇ……」 清水くんは複雑そうな表情。 そして僕に視線を向けた。僕も清水くんを見ていたから、視線が絡む。 なんで、僕? びっくりして、丸くなる目。 妙な雰囲気が場を包んだ。

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