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晴れ4
「……っ、すごい!」
続きそうになった声はどうにか抑える。
ボールを持ってるのは仁くんなのだ。
どうしたらあんなスムーズにボールを運べるのだろうって不思議に思うほど、滑らかに走っていく。
相手のいる位置もよかったのか、仁くんは次々敵チームの選手をかわしていった。
ゴール目前で一人、仁くんの前に立ちはだかった。
試合中から経験者だとうかがわせる動きをしていた子。
「うわぁ……!」
「おおっ……」
でも仁くんはボールをふわっと後ろに蹴り上げて、その子をかわしてしまった。
なんだろう、踵側からつま先側へ弧を描くようにして、自身の頭の上を通過させた感じ。
技名でもあるんだろうか。でもとにかくすごかった。
溜めに溜めて、いざって時に出したのかもしれない。
そしてゴールに至った仁くんのシュートは、当然ネットを揺らした。
同時にピーッと笛が鳴る。
「しゃー!」
仁くんは天高く拳を突き上げる。
そこへチームのみんなが駆け寄っていった。わーわーもみくちゃにされる仁くん。
そんな人混みの中で、仁くんは僕を見る。
あ、また笑顔かな。
自然とそう思った。
しかし今回は違って。
ぐって親指を立てて僕に向けてくる。
相当嬉しかったみたいだ。自分から関係を秘密にしてほしいと言ったことを忘れるくらいには。
僕は笑顔でそれに返した。
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