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のち曇り1

「もうっ……行く」 「待って、待って」 こういう時にまともに相手していいことはない。というか僕は今、普通にかっこいいって思っちゃったし。 僕が大股で踏み出すと、颯太はあっさりついてきた。 颯太の試合は第一体育館のBコートだ。 グラウンドを過ぎて、校舎をぐるっと回り、体育館へたどり着く。 体育館はざわざわと人の声に満ちていた。同時に二試合やるから人の数が凄まじい。全四チーム分の応援者と選手と、関係ないけど単に見るものがない人も。 人の間を抜けてBコートへ行く。もう颯太と同じAチームの人は集まり始めていた。 ちなみに轟くんも一緒のチームだ。 「颯太」 「ん?」 颯太の右手を両手で握る。 「頑張れ」 僕の応援が颯太に届きますようにって、僕の力が少しでも颯太に注がれますようにって、ぎゅうっとする。 「あっ、でも無理はだめだよ」 「亜樹さぁー」 「ん?」 颯太が左手で僕の手の甲をすっとなぞる。その手つきがどこか艶っぽくて、反射的にぞくそくした。それも、甘いやつ。 「俺がキスしたりすると怒るくせに、こういうことは自分からするよね」 「えっ……な、ちが、僕は別にっ……」 「うんうん。俺を煽ってるんだよね」 「違うよっ」 僕は断じてそんなつもりない。 第一、キスは恋人同士だって公言しているようなものだ。でも今の僕の行動はただの応援。それなら平気なはずだ。 手を握って……、それは、よく考えたらだめかもだけど……。 そっと離そうとした手を颯太に掴まれた。そして耳に口を寄せてくる。

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