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のち曇り2

「今夜、楽しみにしててね」 「……っ!?」 熱い吐息が、艶かしい颯太の声が、耳に直接吹き込まれる。 後ろのほうがきゅんとしちゃって、頬が紅潮する。 「じゃあ、頑張ってくる」 颯太は妙につやつやした笑顔で手を振る。僕は完全に固まってしまって、棒立ちで見送った。 だって、なに、今の。今夜って、今夜……って。 それに脳が理解する前に体が反応したのが、恥ずかしいし。 「渡来?」 「へっ!?」 「うおっ。なんでそんな驚くんだよ」 「えっ、あ、清水くん……」 いつの間にやら横に清水くんがいた。 思わず僕が叫ぶと清水くんまで驚く。 「何かあった?」 「いや、ううん。清水くんも応援?」 「そう。あっちだな」 「うん……」 流石に今のやりとりを口で語る勇気はない。そもそも僕と颯太のための会話だから、他の人に話すことはだめだと思う。 一組の人たちが床に体育座りしているスペースがある。そこで清水くんと並んで座った。 「勝つといいな」 「うん」 もうコート内ではウォーミングアップが始まっていた。 颯太は軽やかにボールを操って一回シュートを決める。 かっこいい、鮮やかだ。 「旦那見てんの?」 「うん。……って、あ……!」 慌てて清水くんに視線を移せば、顔いっぱいににやにやを広げている。

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