547 / 961

急迫3

お弁当を食べ終え、颯太と二人で教室を出た。 凛くんと轟くんはトイレ、清水くんと松村くんはまだ教室に残るという。 自分のお腹を軽く叩く。 お腹に食べ物が溜まって、少し元気が出たような気がする。 自分なりに、頑張ろう。 そういえば颯太がご褒美をくれると言っていたし、なおさら頑張れる。 「日陰通って行こうか」 「うん」 お昼の時に颯太に確認された日焼け止めは、ちゃんと塗ってある。だけど涼しいに越したことはない。体力も温存できそうだし。 温存するほどの体力を僕が持っているかといえば、それは疑問だけど。 颯太と並んで校舎の裏手に向かう。 少し遠回りだからひと気はない。でも僕らは時間に余裕を持って出たし、間に合うはずだ。 「……ん?」 「どうしたの、颯太?」 「なんか聞こえる」 「え? 僕は何も……」 不思議に思いつつ歩き続けていると、校舎裏に辿り着いた。茂みが多くある場所。 耳をすますと、僕にも喋り声が聞こえたような気がする。 「あ、あれって……」 颯太が足を止める。 僕も足を止めて、颯太が指差した先を見る。見覚えのある人がいる。 「姫野くん……?」 そう、姫野くんだ。 四人の生徒に囲まれている。姫野くんの顔は怯えを映したりしていないし、彼氏……なのかもしれない。 でもなんだか少し不穏な空気が漂っている。 「姫ちゃんさ〜、他クラスの人応援しちゃ流石にまずいっしょ」 僕も颯太もそれを感じ取って、茂みに隠れる。悪いことしているみたいだけど、何かあっても困る。 すると四人のうち一人が話し出した。 颯太が言っていた通りになっている。 「オレたち優勝目指してんじゃん?」 「いくら可愛い姫ちゃんでも、それはちょっとだめかなぁ」 「他の人にアタックしてもいいけど、姫ちゃんはおれらのものでもあるし」 「ん〜でも、すごく好きなんだぁ」 不満を言われても姫野くんは怯みもしない。それはいつもと変わらない。 それにしても、堂々と浮気宣言できる姫野くんも、何股かけられても構わない彼氏さんたちも、すごい。彼らの中では彼らなりの秩序があるのだろうか。 「それはわかるんだけどさぁ……」 「じゃあ、今ここでシていいよ。他のクラスの彼たちには内緒ね」 「えっ! まじ!」 「よっしゃ!」 「姫ちゃん、大好き〜」 姫野くんは人差し指を唇に当て、可愛くウインクする。

ともだちにシェアしよう!