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急迫5

「今ボクには蓮くんがいるし。恋人いる人になんかもう興味ないし」 「その蓮くんがいるのに他の人に許しちゃうんだ」 助けて終わり、じゃないんだ。 颯太は珍しく挑発的だ。 颯太のことだから何か目的があるんだろう。きっと優しさからくるものだと思う。 とりあえず僕は颯太の後ろに隠れて二人のやりとりを見つめる。 姫野くんは苛々したように、腕を組んだ。 「それとこれとはべーつ。だってさっきの人たちもボクの彼氏だもん。ボクを愛してくれる人」 「……虚しくないの?」 「は?」 姫野くんの瞳がギラリと光る。颯太でなく僕がビクついてしまった。 それくらい怖い。僕と同じくらい小さいのに。見た目はとても愛らしくて、華奢なのに。 「これがボクの恋愛の仕方なんだけど」 「まあ、いいや。やめといた方がいいと思うけどね、こういうの」 姫野くんは不満そうに唇を尖らせ、そっぽを向いた。 颯太はあっさり話を切る。そして僕の手を掴んで、身を翻した。 「あ、待って」 「なに」 「蓮くんには言わないで」 「……わかった」 颯太は背を向けたまま返事をする。それから歩き始めた。 姫野くんのためというよりは清水くんのためなのだろう。今のことを清水くんに言ったって、優しいから罪悪感を抱かせるだけだ。 「姫野くんって……なんかすごいね」 「うん。あそこまで迷いがないのも珍しい。ただ……」 「ただ?」 「いや、いいや。相手は清水くんだし」 「え?」 「ほらほら、バレーの試合始まる」 「え〜」 颯太は笑顔を見せて僕の背を押す。こうなってしまっては颯太に何を言っても話してはくれない。 とりあえず姫野くんは危険を脱したし、それで良しとしよう。彼にとって望ましいかは別だけれど。

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