551 / 961

急迫7

「清水くんと対立してたんだよね」 「それで初めて喧嘩した」 「そして亜樹が久志さんのところに泊まった」 「ふふ、そんなこともあったね」 今思えば信じられないけれど、僕は清水くんのことが怖くて仕方なかったんだよなぁ。 当時は絶望ばかりだったけれど、今ではあのできごとがありがたい。だってあれがなければ清水くんと仲良くなれなかった。そうしたら颯太に拒絶された時、きっと立ち直れなかった。 「ほんと、懐かしいや」 「そうだね……」 清水くんの優しさには感謝してもしきれない。彼の言葉はいつも僕に力をくれる。 今日だって、本当は。 「亜樹? どうしたの?」 「え? なんでもないよ。あっ、凛くん」 「本当だ」 凛くんと轟くんが一緒に体育館に入ってくるのが見えた。二人は僕らの姿を見つけてこちらへやってくる。 「間に合った、間に合った」 「ちょっと焦ったんだよね〜」 「全然平気だよ」 「だな」 時計は試合開始時間の二十分前を示している。集合時間は十五分前だ。 凛くんは僕の手首を掴む。 「亜樹くん、行こ〜」 「うん」 「頑張れよ」 「頑張ってね」 「ありがと〜」 「うん、ありがとう」 二人に手を振ってコートに踏み入れる。 凛くんは僕の手首をぷらぷら振ってから離した。 やはりボディタッチが多い人だ。颯太も轟くんも、もはや気にしない。 「お〜相手選手おっきい」 「あ……」 凛くんの声につられて向かいのコートを見る。みんながみんな身長が高かった。しかも筋肉もしっかりある。 自分のチームを見てみる。 背が小さかったり、細かったり。 その時点で出遅れている。 でも凛くんはいつも通りふわふわ笑っていた。 別にそういう意味でないとわかっているけれど、なんだか勇気が出てくる。 身長が勝敗に直結するわけではないし。

ともだちにシェアしよう!