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焦燥の熱さ1

審判の合図。とうとう試合が始まってしまう。 緊張からか無意識に視線を彷徨わせてしまう。 二階にふと目をやったところ、そこに、仁くんがいた。 仁くんは僕が気づいたことにすぐ気づいて、嬉しそうに手を振ってくれる。 本当に応援、来てくれたんだ。 颯太も見ているし、僕は少し微笑むだけに留めておいた。 「亜樹くん、行こ」 「あ、うん」 両チームがエンドラインに整列する。礼を済ませ、コート内に踏み出した。 キャプテン役の人がネット越しにじゃんけんをした。 「ごめん、負けた」 そう言いながらキャプテンは帰ってくる。そうすると、サーブ権は向こうだ。 相手選手が一人コート外に出る。 「……さっきの人だ」 「ん〜? あ、ほんとだ」 怖い彼はボールの感触を確かめるように、床に何度も叩きつけている。あれは経験者がよくやるやつかもしれない。 バレーボール部、なんだろうか。あの人。 そうであっても全然おかしくない。 「経験者感ばりばり出すね〜」 「怖いね……」 隣の凛くんが楽しそうに言った。 この状況で、すごい。 僕と凛くんは後衛スタートだ。僕はローテーションで最もサーブが遅く回ってくる位置。つまり後衛の真ん中だ。 一セットマッチ、二十五点先取の試合だ。 決勝戦に近くなると三セットになる。 でも今は二回戦目だから前者。あっさり負けてしまう可能性も十分あるんだ。 そう考えたら心臓のあたりが冷える。

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