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焦燥の熱さ2
改めてサーブする彼を見る。
殺気立った瞳。力強い腕。
やはり恐怖は消えない。
絶対に当たったら痛いし、いや別に痛いのは平気だけれど、怖いし。
不安で不安で、思わず颯太を見る。
颯太は僕に気づいて、目を細めて手を振ってくれた。その口元が『頑張れ』って動く。
そんな少しの声援で僕は一気に回復した。颯太がいるから大丈夫だって、訳のわからない安堵を抱く。
その内にボールを打ち付ける音が止む。相手コートの彼がボールを両手に持つ。指にボールをなじませるような仕草をする。
審判が笛を鳴らした。
「……っ」
すると彼と視線が合った、気がする。
慌てて体勢をさらに下げる。腕にも力を入れる。
嫌な予感をひしひし感じているうちに彼はボールを投げ、助走をつけてジャンプする。目にも留まらぬ速さで飛んできたボールは、僕の真正面に、来て。
「うっ」
僕の貧弱な手首に当たったそれはあらぬ方向へ飛んでいく。
そしてコート後方の壁にぶつかって、落ちた。
「うっわー……」
「ご、ごめん」
「今のは取れないっしょ〜」
「どんまい。次、次」
凛くんがぽんって肩に手を乗せてくれる。他のチームメイトも慰めの言葉をかけてくれた。
一方、見ている人たちの中でざわめきも起こっていた。
えげつないとか、腕もげるとか、そんな声。
つぎも、あれが、くる。
怖いけれど打たなきゃいけない。あの人のサーブを切らないと前に進めない。
もう一回腕を構えて、相手選手を見る。
そこからは地獄だった。
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