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焦燥の熱さ3
バンッと壁にボールが当たる。僕の腕に弾かれたもの。
彼は初心を貫き通して、ずっと僕を狙っていた。
きっと僕が一番小さくて、しかも弱々しいから最初のターゲットになったんだと思う。お見合いを狙うより確実だろうし。
それで案の定、僕は毎回打ち上げられない。
頬を汗が伝っていく。荒い息が口から漏れる。手首が熱を持つ。
もう何点だろう。何回僕は、失敗しただろう。
なんとしてでも打ち上げなきゃ。
でも、どうやって。
ボールが飛んできて、気づけば腕にあたって、次の瞬間にはコート外の床にある。
隣コートから聞こえるざわめきをBGMに、こちらのコートではボールが打ち付けられる音だけ。
しんと静まるこちら側。
それもこれも、僕のせい。
ああ、僕のせいで、負けてしまう。こんな、こんな無様な負け方を、一組に背負わせてしまう。
25-0だなんて、あり得ない。笑いの種だ。滑稽だ。
相手が相手だけれど、ここまでかっこ悪い負け方をしたクラスがあるのだろうか。十二組のあいつ、一人で勝っちまったぜ、なんて噂されるんだろうか。
それで……相手はどこってなって、一組がコケにされるんだろうか。
床にボールを打ち付ける音が聞こえる。彼がまた打つ準備をしている。
そして僕はどうせまた、
「あーきーくん」
「うわっ」
突然肩を揉まれる。悪寒が走って、視線を向けると、凛くんだった。
そう、凛くん。
緩く笑みを浮かべて、垂れ目をこちらに向ける、凛くん。
なんだか物凄く久しぶりに見た気がする。
「死人みたいな顔してた〜」
「し、死人……」
「ほら、まだ七点だし〜落ち着こ〜」
凛くんに促されて得点表を見る。確かに7-0を示している。
もっと取られていると思っていた。それこそもうすぐに終わりだというくらい。でもまだ二桁にすら届いていない。まだ完全に負けたわけじゃない。
一回深呼吸をする。
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