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群青色の迷彩4

「そういうところも可愛くて好きだけどね」 颯太は最後に一回微笑むと手を離した。 そして僕らは歩みを再開する。 右も左も紫陽花だらけで視線が忙しい。どこを見たらいいのやら。 紫陽花だということに変わりはないけれど。でも色の組み合わせは全然違う。 青や紫が多い場所や、珍しく桃色が多いところも。 「颯太は紫陽花、何色が好き?」 「んー……やっぱオーソドックスな青? いや紫? なんかその二色の中間みたいな色」 「あ、僕もそれが一番好きな色だよ! 群青色……って言うのかなぁ?」 「あーぽいぽい」 群青色の紫陽花はやはり一番量が多い。 白や桃色も綺麗だけれど、僕は群青色が好きだった。珍しくはない。でもすぐに思い浮かべてもらえる紫陽花の色。紫陽花らしい色。 ささやかだけど、自身を持った感じの、群青色が好き。 「これでいいんだよね?」 「うん」 颯太が指差す紫陽花の前で止まる。僕が想像していたのと同じ。 ひし形の花弁を外側に広げて、みんなで身を寄せ合って。それがいくつも集まって。 「……やっぱり綺麗だね。心が落ち着く」 「うん。……たまには、こうやって休むのもいいね。頑張りすぎるのは、だめだよ」 「……颯太」 颯太の手がそっと腰に回る。僕は恋人を見上げた。 突然めまいが起きたのを心配してくれているのだろう。受験、受験って勉強を詰め込んじゃっていると、颯太は思っているんだろうな。確かに僕は焦ると集中しすぎちゃうタイプだし。実際、勉強量は去年より増えたし。 口を開けて、息を吸う。すぐに閉じる。 視線を紫陽花に戻す。 「……うん。ありがとうね」 声が心なしか震えてしまった気がする。気のせい、だと願いたい。 だけど颯太が僕を見る。きっとその瞳には僕が映っている。 「亜樹……」 ポツッと頬に何かが落ちる。

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