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群青色の迷彩5

「……雨?」 「本当だ」 頬についたのは確かに空から降ってきた水滴だ。 タイミングがいい。いや、意地悪。ううん、やはりタイミングがいい。いや、わからない。 雨を憎めばいいのか、雨に感謝すればいいのか、今の僕には、わからない。 雨は徐々に量を増していく。体が濡れ始める。 このまま何もしなければ全身があっという間に水を浴びるだろう。本来なら不快だが、今日はそれが嬉しい気がする。 びしょびしょに濡らして、ぐちゃぐちゃにして。全て洗い流してほしい。 全て、全て、消して、捨てて。 「亜樹、傘ある?」 「へ?」 「忘れちゃった」 颯太が肩を優しく叩いて、僕を覗き込む。殊更に明るい笑顔で、恥ずかしそうに肩をすくめている。 僕は鞄を漁って折りたたみ傘を取り出す。 「天気予報、雨って言ってたよ?」 「見ると思う?」 「見なきゃだめだっていつも言ってるのに」 「いや〜相合傘嬉しいし? いいんじゃない?」 「あっ! 確信犯だ!」 「何のこと〜?」 颯太がにやにや笑う。僕もおかしくて声を立てて笑ってしまう。 何もわからない。だけどそんな僕にもわかる。颯太は、颯太だけは、いつも僕を想ってくれる。そして優しくしてくれる。 そんな颯太が、大好きだ。 颯太は僕が取り出した傘を取って広げる。そして僕らの真ん中でさしてくれる。 「僕が持つよ」 「身長足りないんじゃない?」 「颯太〜」 再び土の道を進み始める。 ふざけてそう言う颯太をじとっと睨む。もう諦めているけれど、身長が小さいのは僕にとってデリケートな問題だ。 背が高い颯太にはわからないのだろう。男でこんな小さいのは嫌って思う気持ち。

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