569 / 961
群青色の迷彩5
「……雨?」
「本当だ」
頬についたのは確かに空から降ってきた水滴だ。
タイミングがいい。いや、意地悪。ううん、やはりタイミングがいい。いや、わからない。
雨を憎めばいいのか、雨に感謝すればいいのか、今の僕には、わからない。
雨は徐々に量を増していく。体が濡れ始める。
このまま何もしなければ全身があっという間に水を浴びるだろう。本来なら不快だが、今日はそれが嬉しい気がする。
びしょびしょに濡らして、ぐちゃぐちゃにして。全て洗い流してほしい。
全て、全て、消して、捨てて。
「亜樹、傘ある?」
「へ?」
「忘れちゃった」
颯太が肩を優しく叩いて、僕を覗き込む。殊更に明るい笑顔で、恥ずかしそうに肩をすくめている。
僕は鞄を漁って折りたたみ傘を取り出す。
「天気予報、雨って言ってたよ?」
「見ると思う?」
「見なきゃだめだっていつも言ってるのに」
「いや〜相合傘嬉しいし? いいんじゃない?」
「あっ! 確信犯だ!」
「何のこと〜?」
颯太がにやにや笑う。僕もおかしくて声を立てて笑ってしまう。
何もわからない。だけどそんな僕にもわかる。颯太は、颯太だけは、いつも僕を想ってくれる。そして優しくしてくれる。
そんな颯太が、大好きだ。
颯太は僕が取り出した傘を取って広げる。そして僕らの真ん中でさしてくれる。
「僕が持つよ」
「身長足りないんじゃない?」
「颯太〜」
再び土の道を進み始める。
ふざけてそう言う颯太をじとっと睨む。もう諦めているけれど、身長が小さいのは僕にとってデリケートな問題だ。
背が高い颯太にはわからないのだろう。男でこんな小さいのは嫌って思う気持ち。
ともだちにシェアしよう!