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ショッピング2

看板には、『男性のみのご入場はご遠慮ください』と書いてある。 「まあ平気でしょ。それに亜樹が女の子に見えるかもよ?」 「それはないよ……」 呆れるうちに颯太は僕の腕を引いてずんずん入ってしまう。 でもやっぱり男性の数は少ない。いるのはカップルの片割れくらいだ。 「あのー、すみません……」 颯太が迷いなく進んでいたら、女性店員さんが声をかけてくる。その顔は申し訳なさそうで、注意したいのだとすぐ察せた。 やはり僕が女の子に見えるはずがない。そりゃあ一般男性より貧弱かもしれないけれど。 「ごめんなさい。今だけ見逃してもらえませんか?」 「……あ、は、はい……」 しかし颯太は注意を物ともせず、爽やかに微笑む。すると店員さんはポッと頬を染めて、僕らを通してくれた。 颯太はまた当たり前のように歩み出す。 ……すごく手馴れている。 夜出歩いていた時期に来たことがあるのだろう。女性に対する態度もそういう時に学んだのだろう。 それは、仕方のないこと。前々から察せてはいたし、なんでも完璧にこなしちゃうのだから、当たり前だし。 でも、でも……なんか、もやもやする。 「ここにしよっか」 颯太は並ぶ列のないプリクラ機に僕を連れて入った。初めて入る緑色に囲まれた明るい空間に、本当なら好奇心が湧く。 「亜樹?」 「……るい」 「ん?」 当然僕の不満げな様子に颯太は気づく。

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