573 / 961

ショッピング3

自分の考えが情けなくて、みっともなくて、じわっと涙がにじんだ。 言っちゃだめ。誤魔化すんだ。 颯太は僕の両手を取って顔を覗いてくる。 そうされると我慢はできなかった。 「ずるい……颯太ばっかり、慣れてる……」 「亜樹……」 「僕は全部、全部、初めてなのに、颯太は全部、初めてじゃない……」 出会う前に文句を言ったって何の意味もない。人の得手不得手に、経験に、文句を言ったって、何の意味もない。 でも僕は。 醜い。みっともない。 きっと女の人が絡んだから、いつも以上に悔しさが、それから嫉妬が、引っ張り出されてしまった。 「亜樹、ごめんね」 颯太はちっとも悪くない、のに。 とうとう僕の瞳から一筋涙が零れる。 颯太は僕のことを優しく抱き寄せた。僕は素直に背に腕を回して、離れまいときつく力を入れる。 「でも、好きになったのは亜樹が初めて」 くだらない嫉妬にも颯太は優しく声を出してくれる。 「可愛いと思ったのも、亜樹が初めて。守りたいとも、一緒にいたいとも思ったのは、亜樹が初めてだよ」 颯太の声は、一つ一つ耳から全身へと回っていく。 大好きな声と、大好きな熱と。囲まれたら気持ちは溶けていく。 「デートも、旅行も、亜樹が初めて。亜樹の初めてをたくさん貰っているけど、俺もあげているつもり」 「……ん」 「落ち着いた?」 颯太が僕を見る気配がしたから顔を上げる。颯太は優しく笑んでいる。 ああ、やっぱり颯太には敵わない。

ともだちにシェアしよう!