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ご褒美1
○ ● ○
亜樹と並んで夕暮れの中を歩いていく。
最近は徐々に日が長くなってきた。明るい時間が続くのは、特に利点もないはずだが喜ばしい。
「楽しかった〜」
「うん。俺も」
隣の亜樹がふにゃって笑うから、幸福の感情が胸に落つる。亜樹は俺にこうやっていつも幸福をくれる。
昼食を取ったあとは駅周辺の店を好きに回った。服を見て回ったり、カフェに寄ってみたり、普段となんら変わらないデートだ。変わらなくても、俺らに取ってかけがえのないもの。
「夕日が綺麗」
「うん、本当だね」
「この時間に帰るのもいいね」
「夜も好きだけど、この時間もいいよね」
普段のデートで夜になることも多い。だが今日はたまたま夕方に帰る雰囲気になった。
それに俺には一つ早く帰りたい理由があった。
「そういえば、亜樹。球技大会の時に言ってたご褒美」
「んー? 今日くれる?」
「そう。だから楽しみにしていて」
「うん。どんなものかなぁ。嬉しい、ありがとう」
「どういたしまして」
亜樹がキラキラした笑顔で俺の顔を覗き込む。こうやって無邪気に笑うところは本当にいただけない。可愛すぎてキスをしたくなる。
亜樹の機嫌を損ねる。さらに俺が我慢できなくなる。
二つの可能性が浮上するので懸命に堪えた。
代わりになるのかはわからないが、亜樹の頭を撫でた。撫でるのが癖になっている面があることは否めない。
単に亜樹が可愛いのもあるし、髪の毛の感触が心地いいのもある。こうして堪えるための時もある。
「じゃあ今日は颯太の家だね」
「そうだね。ご褒美はそこに置いてあるから」
「ふふ、楽しみだな」
ご機嫌なのか、亜樹が俺との距離を詰める。無意識なんだろうけれど、本当に可愛い。
そうして歩いているうちに俺の家が見えてきた。
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