589 / 961

ご褒美11

目の前ではすやすや寝息を立てる亜樹。 理性を失った俺に亜樹が付いてこられるはずもなく、途中で気を失ってしまった。俺が一回イッたあたりかもしれない。 流石に寝ながらなどしたくないので、まだ興奮したままの自分を虚しく慰めた。 あとは亜樹の体を綺麗にして、寝るだけ。 濡れタオルを用意しようと立ち上がった時、自分の手に光を見出す。 「あ……つけたままか」 左手の薬指の指輪を外す。 安物だから多少汚れても拭けばいいだろうと、そこまで気にならない。いずれ亜樹にはもっと高いものを買うつもりだ。 亜樹の手からも指輪を取る。そしてローテーブルに並べた。 下だけ履いてキッチンに向かう。 指輪をあげたのは去年のクリスマス。もう半年も前のことだ。 あの時、亜樹は泣きながら喜んだ。あの時、俺は亜樹の不安を解消しようとした。 ぬるま湯につけたタオルをぎゅっと絞る。それから部屋に戻った。 亜樹の体を優しく拭いていく。亜樹は少し身じろぐが、起きる気配はない。 あれから何か変わったかといえば、変わった。解決したかといえば、解決していない。 あの日を境に亜樹は悩む姿から、無理をする姿に変わった。俺には何を悩んでいるのかわからない。何を無理しているかもわからない。 大事な人のことをわかってあげられない、最低な彼氏だ。 少なくとも受験のストレスではない。紫陽花園で聞いた時の様子ではっきりわかった。試すような質問をして申し訳ない。 きっと亜樹に聞いても、答えてくれないだろうし、打つ手がない。 「亜樹……」 タオルをローテーブルに置いて、汗で張り付いた前髪を避ける。 「何があっても、俺が守るよ」 その華奢な体を抱きしめて。

ともだちにシェアしよう!