595 / 961
きよみずの清さ6
「おじゃまします……」
またもやドアを開けてもらって、そっと足を踏み入れる。
中はシンプルだった。どこにでもありそうな高校生の部屋。ベッドや勉強机、本棚が並ぶ。
「んーと、あったあった!」
仁くんはタタッと本棚まで近づいて中の一冊を取り出す。遠目で見てもネットで見た表紙の画像そのもの。
「はい! 亜樹先輩!」
「ありがとう……!」
少し黄ばんだ表紙に『照準』の文字。この古びた感じもまたいい。僕がずっとずっと望んでいた本。
僕は瞳を輝かせながら本を見つめる。ちょっと表紙を撫でて、それだけでわくわくして。
もう夢中だった。
「……亜樹先輩」
「……へ?」
だけど、目の前から消えてしまう、本。
状況が掴めない。何が起こっているんだろう。
目の前にあるのは、本ではなく仁くんの顔。そして僕は今身動きが取れない。
なぜなら仁くんが僕に覆いかぶさっているから。
「……仁くん?」
「ねぇ、気づいてないの?」
「な、なにが……?」
仁くんの声はいつもと違ってとても静か。笑顔も大人びたもの。そう、初めて会った時や、後輩になってから時々見せていたような。
いくら僕でも空気が変わったことにはさすがに気づく。
「やっぱりそうか……まあ、そうだと思っていたけど」
「仁くん? えっと、ちょっと……どいてもらえない?」
「素直に従うと思います?」
ニコッと笑った仁くんの顔はすごく冷たかった。酷いものではないけれど、綺麗すぎるというか、なんというか。
仁くんはそのまま僕の首筋に手をやって、するっと触る。僕はびっくりしてピクッと動いてしまう。
「感度いいんですね。彼氏さんに開発されました?」
ともだちにシェアしよう!