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きよみずの清さ6

「おじゃまします……」 またもやドアを開けてもらって、そっと足を踏み入れる。 中はシンプルだった。どこにでもありそうな高校生の部屋。ベッドや勉強机、本棚が並ぶ。 「んーと、あったあった!」 仁くんはタタッと本棚まで近づいて中の一冊を取り出す。遠目で見てもネットで見た表紙の画像そのもの。 「はい! 亜樹先輩!」 「ありがとう……!」 少し黄ばんだ表紙に『照準』の文字。この古びた感じもまたいい。僕がずっとずっと望んでいた本。 僕は瞳を輝かせながら本を見つめる。ちょっと表紙を撫でて、それだけでわくわくして。 もう夢中だった。 「……亜樹先輩」 「……へ?」 だけど、目の前から消えてしまう、本。 状況が掴めない。何が起こっているんだろう。 目の前にあるのは、本ではなく仁くんの顔。そして僕は今身動きが取れない。 なぜなら仁くんが僕に覆いかぶさっているから。 「……仁くん?」 「ねぇ、気づいてないの?」 「な、なにが……?」 仁くんの声はいつもと違ってとても静か。笑顔も大人びたもの。そう、初めて会った時や、後輩になってから時々見せていたような。 いくら僕でも空気が変わったことにはさすがに気づく。 「やっぱりそうか……まあ、そうだと思っていたけど」 「仁くん? えっと、ちょっと……どいてもらえない?」 「素直に従うと思います?」 ニコッと笑った仁くんの顔はすごく冷たかった。酷いものではないけれど、綺麗すぎるというか、なんというか。 仁くんはそのまま僕の首筋に手をやって、するっと触る。僕はびっくりしてピクッと動いてしまう。 「感度いいんですね。彼氏さんに開発されました?」

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