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きよみずの清さ7

「……え」 仁くんの口から発せられた言葉に驚きを隠せない。 彼氏……なんて言ってない、よね。言ってない。うん、絶対言ってない。恋人とは言ったけれど。前にデートの日会った時も、颯太の姿は見られていないし。 ぐるぐる考えている間に、仁くんは僕のネクタイをしゅるりと外す。 「じ、仁くん、何してるの」 「何って……ナニ?」 「へ……?」 「ふふ、可愛いですね」 頭を撫でられる。 仁くんの言った言葉の意味がわからない。そもそも返答として間違っているのではないだろうか。 またも思考に入ってしまう馬鹿な僕。その間に仁くんは僕の両手首をネクタイで縛ってしまった。 「ちょ、解いて……」 「これからイロイロするのに抵抗されたら嫌ですもん」 「……イロイロって……」 「あ、流石にこれはわかります?」 押し倒される。腕を縛られる。そして仁くんの瞳が静かにギラついている。 今更ながら体中に危険信号が巡る。 いや、でも、可愛い後輩が、まさか僕にそんなこと、という思いもあって、未だ半信半疑。 「可愛い後輩演じて近づいたら振り向いてくれるかなぁと思ったんですけど、彼氏さん大好きみたいなので、実力行使です」 「じゃあ……こっちが、素?」 「はい」 仁くんのニッコリ笑顔に目を丸くする。 全然気づかなかった。確かに時々素の表情を見せていたとはいえ、それ以外ずっと元気で少し大袈裟なくらい明るいのが仁くんだった。 それに僕はこっちの方が可愛らしくていいなと思ってたから、余計に信じてしまった。 「ついでに言うと勉強わからなかったのも嘘です。お勧めされた本も全て読んだことありました」 「……え、そう、なの」 「はい」 悲しさ半分、衝撃半分。 じゃあ仁くんの行動は全て計算づくだったんだろうか。掌で転がされるとは少し違うけれど、うまく仁くんに操られていたんだろうか、僕は。

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