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清水家の人々1
「……で? なんでお前は渡来を押し倒してたんだ?」
清水くんが仁くんの部屋に入ってきたあと、まず僕を助け出してくれた。そして仁くんをリビングテーブルに連行したのだ。
今は僕と清水くんが隣同士、仁くんが向かいに座っている。
「亜樹先輩が好きだから」
「だからって無理やりはだめだろ。てかお前まさか気になる人って渡来のことだったのか?」
「もちろん」
清水くんがはーっと溜め息を吐く。
気になる人、というと、確か去年の文化祭の準備中に清水くんが言っていた気がする。妹と弟がいる話をしていた時だ。
「あの……清水くん、仁くん、杏ちゃんは三人兄弟でいいんだよね……?」
「はい」
「……渡来、杏とも知り合いなのか?」
「えっと……颯太が失踪している時期に公園で二人に会って、そのあと杏ちゃんに偶然会ったことが……」
清水くんがすごく驚いた顔をする。
なぜ仁くんは杏ちゃんが僕に告白したことを知っていて、清水くんは知らないのだろう。兄弟差別をするような子には思えないけれど。
寧ろ好きな人ができた段階で聞いて聞いてと二人に迫りそうだ。
「兄にバレたら俺の計画が狂うんで、苗字は隠していましたし、杏にも亜樹先輩に告白したことは言わないよう言っておきました」
「なるほど……」
僕の疑問は即座に仁くんが解消してくれる。僕は感心して頷く。
確かに杏ちゃんからも仁くんからも、名字を聞いたことはない。二人が一緒にいるところは見たけれど、清水くんと一緒のところは見ていない。
勉強会の口止めも清水くんに発覚するのを防いだのだろう。最初から先ほどのようなことが目的なら、清水くんが阻止しようとするに決まっているし。
とにかく僕と、杏ちゃん、仁くんの接点を清水くんに対して、ひた隠しにしたわけだ。
「渡来、感心すんなよ……。それに仁、俺に隠し事多すぎだろ」
「睨まれても、俺は亜樹先輩を振り向かせたかっただけなんで」
「にしてもやり方があんだろ」
しれっと言い放つ仁くんを清水くんは睨む。
清水くんは優しいから僕の代わりに怒ってくれているのだろう。
そんな清水くんを見て、仁くんは片方の口角を上げた。
「俺は兄さんとは違う」
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