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清水家の人々2
どこか馬鹿にするような、というか、哀れむようなというか……。仁くんの表情は大人びて、静かで、やはりどこか冷たい。
全ての事物を平静と眺めている感じ。
きっとこれが本当の仁くんなのだろう。まだ少し信じがたいけれど。
「亜樹先輩のこと好きなくせに身を引くとか、俺は無理」
「……え?」
「仁、なんでっ……」
ハッとなって清水くんは口元を押さえる。
「亜樹先輩のクラス覗いてたら、彼氏がいることもわかったけど、兄さんのことも察せられた。分かり易すぎ」
清水くんは決まり悪そうに唇を噛む。否定の言葉は、出ない。そもそも先ほど、焦って理由を問うた。
なら仁くんの言葉は本当だということだ。清水くんが僕を好き、っていう、言葉は。
全く気づいていなかった。いつからなのだろう。そもそも僕は、清水くんに酷いことをたくさん言ってしまった。
僕を好いてくれていたのに、それに気づかず、色々なことを。その度に清水くんは傷ついていたんだ。
なのに僕はただいい友人だって頼って、仲良くしてもらって。
「……清水くん、ごめん」
「渡来、なんで謝るんだよ」
「だって僕、清水くんにいっぱい酷いこと言った」
「それは好きだって言いださなかった俺が悪いから、気にすんな」
清水くんはやっぱり優しい。そうやってまた笑いかけてくれる。
とても辛かったはずなのに。好きな人から清水くんと付き合う人は幸せだろうと言われたり、恋人の名を呼ぶ好きな人を、ただ抱きしめたり。
「亜樹先輩、そんな悲しい顔しないで。兄さんのことなんて気にしなくていいよ」
「……おい、仁」
「あー!」
突如響く空間を割く可愛らしい声。深刻な雰囲気は粉々に砕けた。
それはリビングにつながるドアから聞こえてきた。
そう、杏ちゃん。
ランドセルを背負った彼女は、ドアのところに立ち、目を見開いていた。
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