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清水家の人々5
「亜樹、大丈夫!?」
すぐに血相を変えた颯太がリビングに入ってくる。大きく肩を上下させ、大粒の汗を流している。
そして颯太は、落ち着いて椅子に座る僕たちを見つける。
三秒間のフリーズ。
そして颯太は清水くんを睨んだ。
「清水くん。弟が亜樹を狙ってるって聞いたんだけど」
「それは事実だ。勘違いした間宮が悪い」
颯太はすぐに清水くんの言葉の意を捉えて溜め息を吐く。
多分清水くんは僕を狙ってる、急げみたいな文面を送ったのだろう。だから颯太は僕が襲われるとか、そういう方向に勘違いした。
「人の家にズカズカ上がりこむなんて行儀の悪い彼氏さんですね」
「その癪にさわる子が弟?」
「ああ。生意気なやつでごめんな」
颯太は睨む瞳を仁くんに移す。仁くんは僕の彼氏だと承知済みなせいか、最初から攻撃的。
だけど颯太は視線を外し、一回息を吐く。
それから僕の隣にやってきた。
「亜樹、何もされてない?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、颯太」
「いや、押し倒されてただろ、渡来」
「は?」
「あっ」
颯太は物凄く低い声とともに清水くんを見る。それから僕に視線を戻す。
「亜樹、どういう……」
「ねね! お兄さん!」
「え?」
しかし颯太が問い詰める前に杏ちゃんが待ちきれないとばかりに声を出す。
前のめりになって杏ちゃんはまたもキラキラの瞳だ。
「久しぶりだね! 亜樹くんの恋人って、お兄さんのことだったの?」
「あ、ああ……うん。そうだよ」
「そうなのね!! またライバルだわ!」
杏ちゃんはこの空気に合わず明るい声音。
これはまた事態が混乱に追い込まれそうな予感。杏ちゃんは無邪気で、仁くんは狙って掻きまわそうとして、だめだ。
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