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清水家の人々7
仁くんは無事に合格して、入学式の日に僕の教室を覗きにいったという。清水くんと同じクラスだろうと予想したのだとか。
そして僕と颯太が一番に教室を出るのを見て、玄関で待ち伏せた。颯太がいなくなったら話しかけ、いなくならなかったら諦めるつもりだった。結果は前者なので、僕と再会を果たした。この時点で颯太が彼氏だということはわかったらしい。
そこから僕のクラスを時々覗くようになり、僕の人となりはわかったという。それで図書室に行くタイプだと予想して、時々そこで待つように。そしたら案の定、僕がきて、しかも教材を持っているから中で勉強をすることもわかった。
そこで本を紹介してもらう、そして勉強を教えてもらう。二つの接点を作った。
僕がかっこいいという言葉や、先輩という言葉、そして可愛い表情に弱そうだと予想して、完全にそれを演じた。
ゴミ捨てを手伝うなどさりげなく紳士な面も見せる。
また勉強会を重ね、僕と距離を近づけていくことを図った。
その間に僕がどれだけ颯太のことが好きかを察せられて、自分に振り向く可能性は0だと思ったという。
だから今日こうやって家に呼んで、快感で溶かしてしまおうと、そう思った。だけど清水くんに止められた。
仁くんは詳細に全て語ってくれた。
つまり仁くんは計算づくで行動していたってことだ。
そんな巧みな演技にも僕は惚れる気配を見せなくて、強硬手段に出て……。無理やりは、少し悲しい。
でも颯太への想いを語った僕に向けた、表情の意味がわかった気がする。
「……弟くん、巧妙というか、なんというか」
「俺もここまでとは」
颯太、清水くんは二人とも話を吸収するだけで精一杯といった様子だ。
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