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お悩み相談5
凛くんは足をぷらぷらさせつつ轟くんの姿を見ている。その瞳には好きが溢れているんだけどな。
いかんせん彼は鈍感だ。僕が言えたことではないかもしれないけれど。
「轟くんからそういうことしようとしてきたりとかは……」
「ん〜……あんまり。キスさえそんなしないっていうか、そういう話題もすぐふざけに変わっちゃうっていうか〜……」
「あー……想像はできる」
幼馴染だし、男だし、そういう方向の話題は昔からしてきたはずだ。急に恋人になっても、なかなかそのノリは抜けないと思う。
僕と颯太は最初からお互いを意識していたし、そういう状況は経験がない。
「凛くんから誘ってみるとか」
「でもたかちゃんが乗り気にならなかったら恥ずかしいだけじゃない?」
「あっ。その呼び方」
「え?」
「いつもそう呼んでるなら、いきなり下の名前呼び捨てにしてみるとか」
僕はそういう方向に疎いから自信はない。でも轟くんは凛くんと違って、ちゃんと恋人として意識していると思う。凛くんは不思議な子だから、そっちにいっていいのか測りかねているみたいな。
だから急に下の名前を呼ばれたらグッとくると思うんだけど……。
「それだけ〜?」
「呼び名が変わるのって結構大きいよ。そのまま誘ってみれば?」
「……そっか。そっかぁ。うん……やってみよう、かなぁ」
「うん。頑張って」
凛くんは一人悩んだり頷いたりしながら、最終的には決意したみたいだ。口元を引き締めて、拳を作っている。
「ありがとう、亜樹くん〜」
「どういたしまして」
凛くんが僕の手を両手で掴んで、ニコッと笑う。人の悩みに貢献できるなんて、僕も嬉しい。
その時ちょうど颯太たちが帰ってくる。
「凛、何してんだよ」
「あっ、たかちゃんだ〜」
「やめろって、抱きつくな!」
凛くんは轟くんの姿を認めた瞬間、そちらへ向かう。そしてぐっと腰に抱きついた。
……大丈夫、だよね。
少し心配になりはしたけれど、僕には凛くんの成功を祈るしかできなかった。
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