621 / 961
凛々奮闘記1
○ ● ○
「おーい、今日の練習もう終わりー!」
部長の声にうぇーいとかはーいとか声が上がる。おれも返事をして、周りに散らばったボールを拾う。
それを籠に戻してから、たかちゃんの姿を探す。すぐに見つかった。タオルで汗を拭っている。
「たかちゃ〜ん」
いつものように伸ばしかけた腕が、途中で止まる。
「……なんだよ」
「……あ〜ううん。帰ろう〜」
抱きつかないことに、たかちゃんは怪訝な視線だ。とりあえずへらへらと笑っておく。
それにたかちゃんは更に不思議そうにした。
「変なやつ」
そう言いつつもおれが隣に並ぶのを見届けてから歩き出す。たかちゃんはやっぱり優しい。昔から。
そしてそんなたかちゃんと、今は恋人同士で。おれは今夜、誘おうと思っている。
たかちゃんがそういうことしたいのか、わからないけれど、恋人同士だしって、おれは思う。亜樹くんたちもやっているみたいだし、やっぱり、うん。
ただたかちゃんに対して改まるというのも、今更って感じはするし。緊張する。
「……ん、凛。おい、凛」
「へ? なに、たかちゃん〜」
「なにじゃねーよ。何度も呼んでんだけど」
「ごめん〜」
たかちゃんはおれを睨んで、小声でまた変なやつと言った。失礼な。
ともだちにシェアしよう!