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凛々奮闘記2
「お前、今日親御さん帰んないんだったよな?」
「うん、そだよ〜」
「じゃあ俺んちで食うだろ?」
「ん〜今日はおれの家でたかちゃんの手料理食べた〜い」
「はぁ?」
たかちゃんは眉をひそめて大声を出した。おれはいつものように笑みを浮かべながら、部室に入る。
たかちゃんのお母さんは、男でも料理くらい作れるようになれ!って、小さい頃からたかちゃんをしごいていた。だからたかちゃんの料理は美味しい。
今回はそれが目的ではないけれど。
「野菜使わなきゃなんだって〜」
「それで俺に作ってもらえって?」
「そうそう〜」
本当は嘘だけど、両親にはたかちゃんに作ってもらったって言えば、勝手に食材を使っても怒られない。
おれは料理が壊滅的だから、たかちゃんに作ってもらうのは実際やっている。
「あーじゃあ仕方ねーな」
「わ〜い」
それぞれ自身の荷物を持って部室を出る。
部室棟の階段を降りる音が、夕焼け空に響いていく。
たかちゃんと並んで、階段を下りるのももう慣れっこだ。いつも、いつも変わらない。
おれの隣にはたかちゃん。たかちゃんの隣にはおれ。
二人とも変わらぬ事実だと思っている。
でも、たかちゃんは、もしかしたらあの時、揺るぐことを、恐れていたかもしれない。
ふわっと風が吹いて、おれの意識をあの日にさらっていく。
高校二年の冬のことだった。
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