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夏だ!どこへ行く!?9
颯太がいじわるだ。ゆ、誘惑なんて、していないのに。そもそも二人はどうして僕を好きなのか不思議でたまらないのに。
颯太のにやにやした顔を睨む。
でも……もし颯太が誰かに好かれていて、腰を引き寄せられたり、知らないところで襲われかけたりしていたら、辛い。
颯太はこうしてふざけた風を装っているけれど、本当は傷ついているかもしれない。
「颯太……」
僕は颯太のワイシャツを掴む。
「ごめんね……。でも、でもね、颯太だけだから。大好きなの……」
「…………」
颯太は目を丸くして僕を見る。それから唇を引き結び、眉間にしわを寄せる。
その表情の変化に僕は首を傾げる。
すると颯太は我慢の糸が切れたかのように、ガバッと僕に抱きついてきた。
「う〜ん……相変わらず亜樹が可愛すぎる」
「……へっ? え?」
訳がわからない。何がどうしてこうなったのだろう。
僕はもたれかかる颯太を抱きとめながら、疑問符を次々浮かべていく。
でもこの口調や声音からすると、颯太は大丈夫……ということだろうか。少なくとも僕の想いは伝わったと、思う。
「だめ、颯太」
「ちぇっ」
腰に手が回って、いやらしく動いたから、やはり大丈夫みたいだ。
もちろんその手ははたいた。
「ねぇ亜樹、放課後水着買いに行こうよ」
「あっ、確かに僕持ってない」
「俺も持ってないし」
「そうなんだ。じゃあ一緒に選ぼうね」
「うん。一緒にね」
「やめなさい」
今度はお尻に回る腕。僕はそれを外して、ついでに颯太の体を押し返した。
けちと伝えてくる瞳を睨んであげた。
そういうのは家でやって欲しい。颯太が欲しくなってしまうから困る。
「ほら、先生来たよ」
「はーい」
授業開始のチャイムと同時に五限の先生が入ってくる。
それを合図に僕と颯太は前を向いた。
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