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瞬刻の想い7

「ならキス以外のことしますね」 「なっ……!」 哀しげな表情はすぐ笑顔に変わった。 本当にこの子は、可愛らしい頃の見る影もない。頭がそもそもいいのだろうけれど、ずる賢くもある。 仁くんは僕の腕の拘束を片手に変えると、空いた手を胸に伸ばす。 当然目指すのは、胸の突起で。 「亜樹先輩、見るからに敏感ですよね」 「だめ、じんく、ひぁっ」 「ほら、やっぱり」 「やめて、ひっ……だめ、あっ」 きゅっと乳首を摘まれたり、抓られたり。痛いくらいの刺激が布越しに伝わってきて、僕の口からは喘ぎが漏れてしまう。 腕をガクガク揺らしてみても、仁くんの拘束は解けそうになかった。 いやだ、どうしよう。こんなこと、だめなのに。 「好きです、亜樹先輩……」 仁くんと僕の視線が絡む。 やっていることは酷い。僕の嫌がること。 それなのにその瞳には切ない色が浮かんでいた。 それは、きっと…… 「何してんの」 颯太の声。 僕の視線はすぐに仁くんの背後に移った。颯太は僕を見ず、仁くんを睨んでいる。 「あーあ。見つかっちゃいましたね」 颯太が仁くんの肩を掴む。意外なことに仁くんは素直に僕を解放した。 「あのさぁ、後輩くんはストーカー? どうしてこんなとこまで来てんの」 「亜樹先輩が好きなだけですけど」 「亜樹は俺が好きなんだから迷惑以外の何物でもないよ」 解放された僕は颯太のところへ駆け寄る。とりあえず背中に隠れさせてもらった。 颯太と仁くんは睨み合って、言い合いを始めてしまう。

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