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対極4
松村くんとやってきたのは近くの二十五メートルプールだ。流れるプールと違って、そこまで人がいるわけではない。
「おら、渡来!」
「わっ、とっ……」
プールに浸かって、僕は松村くんとボールを打ち合っている。
単にレシーブしているだけだけれど。
思えば松村くんと二人きりは初めてかもしれない。なかなかない状況だ。
松村くんのことはもうよく知っているから、緊張はしない。
「松村くん、清水くんと一緒に行かなくてよかったの?」
ポンッとオーバーでボールを返す。
「二人きりにしてやりたかったからなー」
松村くんは片手であっさり打ち返してきた。
「清水くんのため?」
「いや、姫野のためかな。蓮ならどうにかしてくれそうっていうか。まあ蓮のためでもあるっちゃあるんだけどさ」
「二人のため……なんだね?」
「このこと蓮には内緒なー」
至って軽い口調で松村くんは言って、またボールを打ち返してきた。
松村くんの考えはいまいちわからない。
清水くんならどうにかできそう。これは姫野くんの恋愛の仕方ということなのだろうか。それとも別の面があるのか。
清水くんのためというのはますますわからない。
ただ釘を刺したということは、これ以上話してくれないのだろう。
「みんな色々考えているんだよね」
「どうした、急に〜! おら!」
「うわっ!」
急に強く打ってくるから受け止めきれず、額に思い切りボールがぶつかった。
柔らかいから痛くはない。
「わりーわりー!」
松村くんはゲラゲラ楽しそうに笑っていた。
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