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揺れる1

○ ● ○ 「どこ行こっか〜、蓮くん!」 隣を歩く姫野がニコニコしながら顔を覗き込んでくる。 こうして見ると胸の薄い女のようだ。だがこいつは男。しかも何股もかけている。 間宮と仁が数人ごとの別行動のきっかけを作りやがったから、非常に恨みたい気分だ。そうでなければ俺はこの状況に陥っていない。 「あのさ、こういうのやめてくれよ」 俺が足を止めると、姫野も止める。そして俺を見上げてきた。 臆病で、引っ込み思案で、天然で、一生懸命なあの子と、姿が重なる。 「俺は本当に渡来が好きなんだ」 姫野がどれほど俺に本気なのかはわからない。そもそも真面目に俺のことを好いているかも定かではない。 しかしたとえそうであっても、対応は誠実であるべきだ。 姫野は俺のことを見上げながら、微笑んだ。これまた綺麗で、整った笑み。 「相手がいたって想いは変わんないよ。蓮くんなら……わかるでしょ?」 「姫野……」 「蓮くんはあいつを好きでいて。でもボクはアプローチをやめない」 最後にこてんっと首を傾げると姫野は歩みを再開した。 表情はいつも通り作り物だった。だが想いは本当なのかもしれない。そう感じさせる声音であった。 「ところでどこ向かってんだ」 「えー、決めてないよ〜」 普通に話しかけたら、姫野も普通に返してきた。 「おい、それくらい決め……」 俺の言葉は最後まで続かなかった。理由は子供の泣き声が場に響いたからだ。 出どころはどうやら小児用プールゾーン。男の子がこけてしまったらしい。わんわん大声で泣いている。しかも保護者は近くにいないようだ。 助けに行かなければと走り出そうとしたら、その前に俺の横の存在がいなくなる。

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