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揺れる2
姫野はまっすぐ男の子の元へ向かった。俺も慌てて追いかける。
「大丈夫?」
姫野は男の子の頭を撫で、優しく声をかけてやっている。
俺は驚いてしまった。
姫野の表情がとても自然なものだったのだ。柔らかく慈愛に満ちた笑顔だ。
「……お姉ちゃん、誰?」
「ボクは姫野」
男の子は涙で潤んだ瞳で姫野を見る。姫野は性別に関して特に驚きもせず返した。
間に入る隙間も必要もないので、俺は外から見守ることにする。
「姫野お姉ちゃん……?」
「そう。キミは?」
「ぼくは相川武って言うの」
「武くんか。転んじゃったの?」
「……うん」
「見せて」
男の子、武くんはその場に体育座りになって膝を立てる。血が滲んでしまっていた。
とにかくまず水道で洗うべきだろう。
「んー、水で洗ってから絆創膏貼らなきゃだね」
「洗うの痛い……?」
「少し沁みるかも。でも我慢できたらかっこいいよ」
姫野はニコリと笑って武くんを見る。この笑顔も自然なものだった。
「お姉ちゃんもかっこいいと思う?」
「もちろん」
「じゃあ、頑張る」
武くんはぐしぐしと涙を拭いた。そして姫野を見つめて小さく笑む。
姫野は「偉いね」と武くんの頭を撫でた。
まるで仲のいい兄弟のようだ。
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