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揺れる3
「今日、お家の人は?」
「ママと来たんだけどね、今トイレ行ってるの」
「一緒に行かなかったんだ?」
「ぼく、遊んでいたかったの。だから待ってるって言った」
「そうなんだ。待てるなんてすごいね」
姫野の褒め言葉に武くんは物凄く嬉しそうな顔をした。
姫野は子供の扱いが上手いみたいだ。もしかしたら兄弟がいるのかもしれない。
俺も俺で仁や杏の面倒を見てきたから、この様子が慣れている者のそれだとなんとなくわかる。
「入れ違いになっても困るし、お母さんを一緒に待ってよっか」
「うんっ」
姫野は武くんの手を取って立ち上がらせる。
そこまで深くない傷のようで、立って歩く分には支障がなさそうだ。
次に姫野は俺を申し訳なさそうに見る。
「ごめんね、蓮くん。一緒に待ってくれる?」
「ああ。全然平気だよ」
「ありがとう」
「……お兄ちゃん。お姉ちゃんとプール来たの?」
そこで武くんは初めて俺の存在に気づいたみたいだ。興味津々で俺を見つめてくる。
姫野と武くんが手を繋いで歩き出す。俺は武くんの隣についた。
「そう。一緒に来た」
「じゃあお友達なんだ」
「ああ、だな。友達だ」
無邪気な笑顔につい微笑んでしまう。
五歳くらいに見える。だからまだませてはいないみたいだ。男だからというのも一つの理由かもしれない。
姫野は武くんを小児用プールゾーンの壁際に連れていった。
ここなら他に遊んでいる子たちの邪魔にならず、母親が帰ってきても見つけることができる。
三人並んで座る。
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