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揺れる5

お母さんは武くんに指差すことを手でやめさせながら、俺たちに向き直る。 「姫野って言います。こちらは清水です。武くんが転んで泣いているところを見かけたので、付き添っていました」 「そうだったんですね。ありがとうございます……! ごめんなさい、ご迷惑おかけして」 姫野の言葉にお母さんは目を丸くして勢いよく頭を下げた。 「ほら、あなたも」と言われて武くんも頭を下げていた。不思議そうな顔をしていたところが可愛かった。 「いえ、全然! ボクたちとても楽しかったので。ね? 武くん」 「うん! お話ししてね〜お友達になってね〜嬉しかった!」 「武……」 姫野が膝に手を置いて武くんと目線を合わせる。ニコッと微笑み合う様子に、お母さんはどこか嬉しそうだった。 「入れ違いになると困るからと、怪我した膝がそのままなので、治療してあげてください」 「あの、本当にありがとうございます……」 「いえいえ。ただ……」 お母さんが武くんの膝を見る。 それからまた姫野と俺を見て、頭を下げた。 姫野はそれに依然として笑顔で答える。だがその声が一瞬、曇った。 「極力、子供と一緒にいてあげてください。本人が大丈夫と、言っても」 姫野の言葉にお母さんがハッとした顔をする。それから武くんを見て、その小さな手を握った。 それからまた俺たちを見る。 「はい……、今回は危機管理が足りませんでした……。でもお二人のような方と巡り会えて、本当に感謝しかありません。ありがとうございました」 「ばいばい、お姉ちゃん、お兄ちゃん」 お母さんは最後に深々と頭を下げて、武くんの手を引いて歩き出す。 武くんは笑顔で俺と姫野に手を振った。 「ばいばい」 「じゃあな」 俺たちも振り返す。何とは無しに二人の背が小さくなるまで見送った。

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