667 / 961

揺れる7

○ ● ○ 「茂ー!」 松村くんを呼ぶ声。 ボールを打つ手を止め、二人して出所を見る。清水くんがこちらへ向かって歩いてきていた。 その横には姫野くんがいる。 この構図だと清水くんが姫野くんを連れているように見えた。いつもは姫野くんに振り回されてばかりだったのに、いつの間にやら立場が逆転している。 「おおー! 帰ってきたのかよ!」 「もうこいつの相手に疲れたんでな」 「酷いよ、蓮くんー!」 松村くんがプールから上がって清水くんを出迎える。僕も遅れて上がった。 『こいつ』と顎で示された姫野くんは頬を膨らませる。芝居がかっているにもかかわらず可愛いのだから、姫野くんはすごい。いや、芝居がかっているからこそなのだろうか。 「ずっと二人でいたのか?」 「おう! 渡来とビーチバレーをしていた!」 「ビーチじゃねーだろ……」 「松村相変わらずバーカ」 「そんなことねーよ! オレは天性の才能を持つ者!」 姫野くんの呆れ声に松村くんは、顎に手をかけつつ体の動きも交え、ポーズを決めた。僕にはよくわからないけれど、自分でかっこいいと思っているものなのだと思う。 僕は苦笑してしまった。清水くんと姫野くんは溜め息を吐く。 「てか仁のやつまだ帰ってきてねーのか。間宮も間宮で何してんだよ」 「仁はなかなかに運動神経いいし、いい勝負してんのかもなー!」 「そうじゃないって……」 清水くんがあたりに視線を巡らせ、二人の姿が近くにはないことを確認する。 ……じわっと嫌な気持ちが蘇ってきてしまう。

ともだちにシェアしよう!