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揺れる9
清水くんの優しさで少し心が軽くなる。
「亜樹ー!」
だがタイミングが悪いのか、良いのか。
颯太が大きく手を振って僕のところへ向かってくる。後ろからは仁くんがついてくる。
少なくとも今の僕にとっては、悪い。
逃げたくなったが、隠れる場所もないし、逃げる先もない。
なす術なく颯太が来るのを待つことになる。
「亜樹、勝ったよ」
清水くんも松村くんも姫野くんも避け、真っ先に僕に報告する颯太。その顔がキラキラ輝いている。
その様は、可愛い。でも、やっぱり。
「殆ど引き分けでしたけどね」
「負け惜しみはよくない、後輩くん」
すぐに仁くんが追いつく。じとっと颯太を睨む。
喧嘩するほど仲がいい。その言葉が今の二人には似合ってしまいそう。
「これで今日は俺が亜樹を独り占めできるね。まあいつもそうなんだけど」
「……うん」
ああ、本当に可愛くない。
小さく短い返事しか返せない。得意の笑顔で誤魔化すしかできない
ここで僕がうまく演じられたら、明るい雰囲気のまま場が収まるのに。
「亜樹……」
颯太の言葉はもはや疑問系ではない。
「ちょっとみんなごめん。待ってて」
「颯太っ……」
颯太は僕のことなどお見通し。それに今は僕の態度も下手くそだった。
腕を掴まれ引っ張られてしまう。
抵抗したけれど有無を言わせず颯太は歩いていく。
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