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揺れる10

颯太は僕を連れてプールとプールの間、人の少ない場所に行った。 颯太は自身が壁側に立って、僕の手を離した。 俯いていると前髪が顔にかかる。おかげで颯太の顔が見えない。 「亜樹、ごめん。後輩くんとのこと、だよね」 颯太は優しく僕の頭を撫でる。そしてするりと顎に指を滑らせた。 くいっと力を入れられれば、僕は難なく顔を上げさせられる。颯太の申し訳なさそうな瞳と、視線がぶつかる。 「……颯太、最近……僕を見ないで、仁くんと話して、ばっか……」 「……うん。返す言葉もないや。亜樹から彼を離そうとすると同時に、楽しんでいる自分もいたと思う。ごめん……」 瞳が潤む。 颯太には正直に。 そう思って話して、颯太は謝って。 でも、恐怖、だろうか。それが増した気がする。 僕の嫉妬心は日々抑えきれないほど膨れ上がっていく。 「違うの。颯太は、悪くない。だって僕以外と仲良くするのも、大切なことで、僕には止める権利はなくて……。でも僕が嫉妬しちゃうから……」 「亜樹の言うことは本当かもしれない。でも俺にとって亜樹が一番なのも変わらないんだ。だから」 「でも、怖いの」 「……え?」 どうすればいいのだろう。 颯太がいないと僕は本当にだめになってしまうみたいだ。でも一人の人間がもう一人の人間を支配するなど、独り占めするなど、あってはならないことなのに。 僕の独占欲は大きくなって、颯太を包んで、これでは、僕は、もう。 「颯太が好きすぎて、ずっと一緒にいたいって思っちゃう」 どろどろとした何かが僕を囲うような感覚だった。 「きっと、きっと大学生になってもっ……」 だから僕は口を滑らせた。 ハッとして言葉を止めても遅い。 「大学……。そういえば亜樹の志望校ってどこ? 近ければまた今までみたいな生活できるよ」 「あ、うん……えっとね」 颯太の笑顔に喜色がにじむ。 同時に僕の心は抉られる。 そうだけど、そうではない。 ううん、そうなのだ。 ぐちゃぐちゃな心は混ざり合って、溶けて、上から塗り潰される。 颯太の期待に満ちた眼差しから目を逸らしかけた、その時。 「おーい! 間宮、渡来ー!」

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