673 / 961
透明の恋慕2
口を開けてみる。
すぐに閉じてしまう。
だめだ。緊張しすぎて、息すらうまく吸えない。
なぜおれはこんな状態になってしまったのだろう。今が嫌だというわけではないけれど、せめて普通に接することはしたい。
「いいよ。別にゆっくりで」
「たかちゃん……」
パシャッと一回水を蹴り上げて、隣のたかちゃんが静かに言った。おれを見てはいない。
たかちゃんには何でもお見通しなんだなって、どこか嬉しくなった。
「……ねえ、最近のおれ……変だと、思う?」
少し余裕の生まれた心は、おれの口に言葉を紡がせてくれた。
プールサイドの床に手を置いて、水面を眺める。
「んー、まあ、そうだな。俺を避けてるような気がしなくもない」
「だよね〜……」
「……俺、なんかした?」
その一言にどきりとする。
だがその声音はさして心配していないものであった。確認程度に聞いておきたいと言ったところだ。
おれは小さく頭を振る。
「ううん。おれが悪い」
「悪いは言い過ぎだろ」
「引かないって約束してくれない?」
「んだよ、それ。珍しいな」
たかちゃんは可笑しそうに笑い声を漏らした。
「お願いだから」
「そんなの約束するまでもねーだろ。今さらだって」
「……うん」
たかちゃんがおれの背を軽く叩いた。手が直接背に触れる。
そこからじわっと温かさが広がっていった。
ともだちにシェアしよう!