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透明の恋慕5

○ ● ○ 「おーい! 小室! 轟!」 松村くんが二人の姿を見つけて、輪の中から駆けていく。 松村くんが声を出す前に二人は立ち上がっていたから、話は終わっていたのだと思う。 松村くんが二人を連れ立って僕たちのところへ帰ってくる。 「なっ! なっ! だからスライダーやろうぜ!」 「まあ、楽しそうだし〜」 「だな。せっかくみんなで来たんだからみんなで行こうぜ」 「よっし! 決まりー!」 辿り着くまでにそんな声が聞こえてきた。みんな仲良くウォータースライダーへ行くことが決まったらしい。 ジェットコースターと似たような感覚があるのだろうか。わくわくしてしまう。 「皆、オレに続けー!」 松村くんが意気揚々と前方を指差した。 清水くんがそれに「うるさい」ってツッコミを入れてから続いた。他のみんなもそれについていく。 「颯太は乗ったことある?」 「うーん……いや、ないなぁ。プール自体行った記憶がない」 「そっかぁ。僕も」 颯太と後ろの方で話していると、前を行く轟くんが歩くペースを落とす。凛くんの隣から僕の隣にやってきた。 轟くんは腰を少し屈め、口元に手を当てる。 「前に相談したこと、大丈夫だった。ありがとうな」 「あ、よかった。じゃあこれからは……」 「おう。いつも通りでいけそうだ。本当にありがとうな」 「ううん。お役に立てたならよかった」 轟くんは照れ臭そうに笑う。そして片手を上げ、凛くんの隣に戻っていった。 後ろから見る限り、いつも通り話していた。心が温かくなる。 「今の何?」 「へっ!」 勝手に嬉しく思っていたら、隣の颯太が僕の顎をなぞる。無理やり颯太の方を向かされた。 そこには、少し不満げな恋人の顔。

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