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透明の恋慕6

「ま、前にね、相談に乗ったの。その報告っていうか」 「相談、ねぇ……。あ、教室で二人でこそこそしてた時?」 「えっ、見てたの?」 颯太が思考を巡らせたあとピンと人差し指を立てる。的確な指摘に目を丸くする。 確かあの時、颯太は仁くんと言い合いをしていた。だからそれに夢中で気づいていないのだろうなって、思っていた。 「見てるに決まってるでしょ。誰といようと亜樹から目は離さないよ」 「そ、うなんだ……」 両手を頬に当てる。熱かった。 こんな小さなことで舞い上がる自分に呆れそうだ。先ほどまではあんなに不安で心臓が締め付けられていたのに。 でも颯太は颯太なんだって。僕を優先しすぎるくらい優先してくれて、いつでも優しくて、王子様みたいな人。 それはたとえ仁くんのような存在が現れても、変わらないんだって。 「今何考えてるのー?」 「えっ、颯太が王子様……」 ハッとなって口元を押さえる。 元からにやにやしていたけれど、僕の言葉で颯太の顔にさらにそれが広がる。 「ふーん……俺が王子様、かぁ」 「や、やだ。忘れて」 「いーじゃん。そしたら亜樹は俺のお姫様になれるんだよ?」 「……でも、恥ずかしい」 「今さら」 颯太はくしゃくしゃと僕の頭を撫でる。水に濡れて冷たいはずなのに、とても心地よくて温かい。 羞恥に染まっていた脳が徐々に落ち着いてくる。 お姫様。ううん、お姫様ではなく、颯太のお姫様だから、嬉しい。それなら、嬉しい。 「大丈夫。王子様はいつでもお姫様と一緒にいるからね」 「……颯太?」 「あ、ついたみたい」 静かに呟かれた一言。トーンの異なったその言葉に疑問を返したかったが、その前にスライダーについてしまった。

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