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Rainy magic 2
○ ● ○
空には暗雲が立ち込め、隙間から何度も光が漏れる。そしてその度に家の中に音が轟いた。
雨は嫌いだ。雷は、もっと嫌いだ。
勝手に強張る体。
それが情けなくて、みっともなくて、惨めで、酷く自分に苛立った。
片付けなければならないレポートがあるのに、なかなか進まず、結局今はリビングにいる。
その事実にも無性に腹が立つ。
『使えない人間』
今の僕にぴったりの言葉だ。
「ただいま」
「……おかえり」
その時、リビングのドアが開いて誠也が帰ってきた。すっかり見慣れた黒髪にスーツの格好だ。
もう七月だというのに『おかえり』を口にするのがためらわれる。二人暮らしを始める前にこの挨拶だけは必ず言うと決めたので、言わなければならないことだとわかってはいるのだが。
「飯どうする?」
「……なんでもいい」
「んじゃーおれ作るわ」
「……ああ」
『頼む』の一言すら言えない僕。
苛立っているとはいえ、最低な人間だ。本当に、最低。感情をコントロールすることもままならないとは、なんて子供なのだろう。
「……っ」
その時、一際明るい光がカーテン越しに見える。直後に大音量。
何か大きな塊が落下したのかと思えるほどの音だった。
ああ、嫌だ。雷は本当に、嫌だ。
『お前は本当に使えない人間だな』
脳の中に父親の声が響き始める。
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