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Rainy magic 5

改札を抜け足早に家に向かおうとする。 特にサークルは入っていないし、唯一所属しているゼミも今日は休みだ。しかも四限終わりであったので時間がかなりある。 「ねね、柊くん〜」 だが煩わしい声にそれを邪魔される。 僕は無視して歩みを進めた。 「ちょっとちょっと、柊くん」 するとそいつは僕の前に先回りして進路を塞ぐ。避けて進もうとしても立ち回りがうまく不可能だった。 仕方なく僕はそいつの前で足を止めてやる。静かに腕を組んだ。 『そいつ』とは同じゼミに所属する菊田啓二のことだ。 少し明るい茶髪に、今時の大学生らしいおしゃれな格好。言うなればどこにでもいる活発な大学生。 僕みたいに勉学だけをやりにきたわけではない人間だ。当然僕と関わりがあるはずもない。 「無視しないでよ」 「気安く名前を呼ぶな」 「え〜、でも苗字で呼んだらめんどくねって思ったからさ」 「ふん」 だからこそ今の状況が謎だった。 僕は特に誰かと親しくするつもりはないし、それこそ出かけたりする気もない。 跡取りではないうえに、颯太と対立しているわけでもない。それに大学はいい態度ではなく、結果で評価される。だからもう外面をよくするつもりはなかった。 それなのにこの人間は僕に関わろうとする。このように見るからに冷たい人間になぜ好んで話しかけるのだろうか。 「このあと暇? 遊び行かね?」 「……今日は用事がある」 「あ、まじ! だから急いでいたのか〜! なら今度だな! 引き止めてごめんな!」 素直に言ってみればこいつはあっさり道を開ける。それから顔の前で手を合わせて謝罪のポーズをした。 意外……ではあった。 基本的にチャラい人間は全て似たような傾向と思っていたのだ。相手の都合など考えず自分を通す。 だがこいつは違う。日本有数の大学に通うだけはある、ということか。そもそも基準のレベルが違うのだろう。 「別に構わない」 「おう、サンキュ! じゃな」 「……ああ」 手を振るやつに軽く頷いて僕は帰路に着いた。

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