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Rainy magic 6
帰り道を辿る際にスーパーに寄った。
初めてというのは言い過ぎかもしれないが、来た記憶が全然ない。
周りの客を観察して、まずカゴを手に取る。それから店内に入った。
白く輝く店内は僕にはわけがわからなかった。だがとりあえず歩みは止めずにいく。
今日は料理に挑戦してみようと思っている。自分でもこの思考が謎だった。だが誠也に任せきりというのは、駄目だ。
寄りかかってばかりの僕ではならない。
いつ切り離されるか。いつ捨てられるか。
その程度のことではそうはならないとわかっているのに、考えてしまう自分がいる。
普段の僕ならあり得ないこと。だが人は変わるものだ。誠也だってこの生活を始めて、ああいう風に変わったのだから。
カゴを握る手に力が入る。メモを取り出し、必要なものを探す。
どうやら天井から置いてあるものが書かれた看板がぶら下がっているみたいだ。それを頼りに食材をカゴに入れていった。
今日作るのはつくねだ。
肉は切らないが、玉ねぎの時に包丁を使える。煮込むなどの難しい行程はない。
初心者には相応しい料理だと思った。
全て材料を揃え、レジに並び、会計をすませる。レジ袋に買ったものを詰め、スーパーから出る。
誰でもできる行為。だが僕の胸には一種の誇らしさのようなものが浮き出る。
「……阿呆らしい」
思わず自分を鼻で笑った。
馬鹿みたいだ。これだけの行為で。
それに、誠也の表情を想像して浮つく僕も、馬鹿みたいだ。
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