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Rainy magic 8

目の前にはすっかり焦げたつくね。おもて面はまだ大丈夫だが、裏は食べられそうな見た目ではなかった。 書いてある通りにやったはずだ。それなのになぜ。 濡れた蓋を流しに置き、もう一度フライパンを覗く。 僕の胸には絶望とも恥辱ともつかぬ感情が浮かび上がった。 「僕は料理一つまともにできないのか……」 声に出せば現実として突きつけられるような感覚。 情けない。僕はこれほどまでに無能であったらしい。生活能力が皆無だ。 焦げた塊をどうすればよいかわからず、椅子に腰掛ける。額に手をやって、髪の毛を掴んだ。引っ張られた髪の毛が痛む。 「ただいま〜」 その時、ちょうど誠也が帰ってきた。僕は返事を返す気になれなかった。 「おーい、柊?」 誠也の声は廊下からリビング、僕の部屋の方へと移っていく。それからキッチンの方向へ足音が近づいてきた。 「まさかとは思ったけどここにいるなんて珍しいな。何かしてたのか?」 僕は黙って誠也から顔を逸らす。 誠也は首をひねりながら僕の傍へ来る。そうなれば当然フライパンが目に入るわけだ。 「おお、夕飯作ってくれてたんじゃん」 「……違う」 「違くねぇだろ」 「……それは食べ物じゃない」 「何言ってんだよ」 誠也はゲラゲラ笑い声を上げた。 だが誠也にだってわかるはずだ。見るからに焦げていることくらい。 「美味いぞ、これ」 「なっ、食ったのか」 目を見開いて顔を上げると、口を動かす誠也が目に入る。

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