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Rainy magic 9

「阿呆!」 「あほってなんだよ」 「そ、そんな黒い塊を食うなど正気じゃない!」 「お前なぁ……」 ガッと顎を掴まれた。指が食い込む。痛い。 だが誠也の顔は真顔でありつつもそこまで怒ってはいない。寧ろ嬉しそうだ。 「これは誰のために作ったんだよ」 「……」 「誰のために、作った?」 「……誠也」 顔を逸らすことを許されず、僕はぶっきらぼうに吐き捨てた。すると誠也はすぐに手を離す。 「だろ? おれのために作られたもんにてめぇが文句つけんな」 「……なんだそれ。作ったのは僕だ」 「でももうおれのもん」 「……意味、わからない」 目の端が熱くなる。誠也の優しさが胸に突き刺さる。 なぜ、怒らない。これほど駄目な僕を、なぜ、怒らない。 わからなかった。 誠也の考えも、自分の感情も、何もかも。 でも怖かった。とにかく、怖かった。 何かはわからない。だが頭の芯から冷えていくような感覚がある。 「それにこれタレ作って……って、柊?」 誠也の前にいるのが、苦しい。 気づけば僕は部屋に逃げ込んでいた。 「柊? どうした? 大丈夫だって、別にあんくらい」 誠也は当然追ってくる。鍵はついていないが、ドアを開けようとすることはなかった。 唇を血が出るほど噛んだ。 誠也が好きだ。誠也といることが幸せだ。 そのはず、なのに。 自分がわからない。 「なんか最近機嫌わりぃなぁ」 諦めたような誠也は部屋から離れていった。僕はその場にしゃがみ込んだ。

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