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Deviation 2

講義が少し延長して終わる。よくそうなる教授だから覚悟はしていた。 出席代わりになる紙に感想を書き、前の机に提出する。それから早足で大教室を出た。 次の講義の教室は少し遠い。 「待って、待って」 すると何故か僕の後ろからあいつが顔を出す。 「だって次専門っしょ? 俺も同じの取ってるんだよね〜」 僕の表情から思っていることを読み取ったのだろう。朗らかに笑ってくる。 専門なら被ってもおかしくはないが、よりによって次が被るとは運が悪い。 「はいはい、走るぞ」 僕の表情に嫌悪は滲み出ていたはずだが、こいつは物ともせず。 僕の肩を軽く押して軽快に走り出した。 遅れるわけにもいかないので、僕も仕方なく走り出した。 いくつかの講義棟を抜け、目的の講義棟へ辿り着く。教室は二階なので階段を駆け上り、そこからすぐの教室へ入る。 僕より先に入ったあいつは一番前の席を獲得して、その隣をポンポン叩く。 一列ずれて座ろうと思っていたが、完全に読まれている。ここまでされては座る以外に選択肢はない。仕方ないから隣に腰掛けた。 「一分前。ギリ間に合ったな」 隣のやつは腕時計を見て、僕に笑顔を見せてくる。 「……そうだな」 僕が返事をすれば、目を見開いて顔中に笑顔を広げる。 少しの罪悪感と妥協に揺れる心。 悪いやつではないことは無論わかっているのだ。 その時レジュメを大量に抱えた先生が入ってくる。 「授業が始まる。前を向け」 頑なに拒否せずともよいか。 そう思う自分がいた。

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