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Deviation 6
「えーなんだろうな。たぶん最初は九条ってことが理由で気になってたかな。だけど誰とも関わらない様子に興味湧いて、話したら面白いやつで、もっと話したくなった!」
啓二は頭の後ろで両手を組みながらそう言った。
その言葉を聞いて謎が深まる。
九条だから気になるのは仕様のないことだろう。だが誰とも関わらないとか面白いやつとか、そこら辺のくだりはわからない。
「僕なんかに関わらずとも、お前なら他に友人がいるだろう」
「僕なんかってなんだよ! 確かに別のやつらと遊ぶのも楽しいけど、お前と遊ぶのも楽しいから! 俺が好きでお前と一緒にいるんだよ!」
啓二は顔いっぱいに笑顔を広げ、僕の背を叩いた。
「物好きめ」
変なやつだ。僕と一緒にいて楽しいなどあり得ない。こんなに愛想も面白みの欠片もないやつと。
だからごく当然と思ってその言葉を返したのだが、啓二はきょとんと僕を見つめてくる。
「物好きじゃないっしょ、俺。他にもいるから絶対。柊といるだけで楽しいやつ」
「……変なやつだ」
「あー信じてないな!」
啓二が笑顔で怒り始めたところでちょうど駅に着く。家の方向は別なので駅で別れることになる。
「……でも」
共に駅に入り、改札を抜ける。
「ありがとう。啓二」
「……しゅ……」
目を見開く啓二。
こいつと一緒で楽しかったのも事実。こいつが優しいのも事実。
だからいいと思った。礼を言うのも、名前を一回くらい呼んでやるのも。
「またな」
「おっ、おう! じゃあな!」
僕が自分のホームに向かって歩み始めると、慌てて啓二も手を振った。それに見えないよう微笑んで、僕は階段を降りた。
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