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Deviation 7
「……ただいま」
結構遅くなった。連絡も何もしていないが、僕であるし、大学生でもある。だから特に心配はされていないだろう。
玄関からリビングに入る。誠也はソファに座ってテレビを見ていた。
「遅かったな。何してた?」
「友人と遊んでいた」
「そうか。楽しかったか?」
「ああ」
「ならよかった」
誠也は僕の方を振り返って、ふわりと笑った。僕に友人がいることに素直に喜んでいるようだ。
立ったままの僕。胸のあたりが僅かに痛む。
「ここ来いよ」
誠也が自分の隣を叩いた。
「……いや、勉強がある」
「そうか。頑張れよ」
「ああ」
うまく誠也の瞳を見ることができないまま部屋へ行く。
ドアノブに手をかけ、前に引く。ドアが開き、中に入り、手を離す。
パタンとドアが閉まる。
しゃがむ。
『普通』とは、何だろうか。
『普通に接する』とは、何だろうか。
最近、わからなくなる。
誠也といると楽なはずだった。それなのに今は、苦しい。自分への嫌悪が、情けなさが、溢れ出してくる。
「そういや柊……うわ、どうした?」
いきなり部屋のドアが開く。
そうなれば当然誠也は電気もつけず蹲る僕に驚くわけだ。
「……いや、何でもない」
「調子悪いのか?」
慌てて僕は立ち上がり、机に荷物を置く。背後から聞こえた声に首を振る。
「平気だ」
「でもお前、」
「放っておいてくれ」
ピシリと言い放ってしまう。
それは自分を隠すため。誠也に気づかれないため。決して誠也に負の感情があるわけではない。
「んだよ。ほんと最近機嫌わりぃな」
「……」
「仕方ねぇ餓鬼だ」
誠也が部屋から出ていく。パタンとドアが閉まる。
歪んでいく。
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