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Crush crush 2
玄関の鍵を開け、中に入る。
学校を出た時間が遅かったし、男が数人集まればお開きになるのも遅い。そのためこの日はかなり遅くなってしまった。かろうじて日付は超えていない。
「……ただいま」
「おかえり。今日も遅かったな」
リビングに入ってからそう言うと、誠也は振り返らずに言った。その視線はテレビに向けられている。
「ゼミが遅く終わったから、夕飯を食べてきた」
「……それって、最近よく言ってる友人とか?」
「ああ」
僕はリビングのドアの前。誠也はソファ。
その距離で言葉をかわす。
もう前までの立ち位置すら思い出せなかった。
「その友人って男だよな」
「そうだ」
「やけに仲良いんだな」
「何が言いたい」
こう問わずとも誠也の言いたいことはわかった。完全に疑われている。
それは悲しくもあり、情けなくもあり、苛立ちも感じた。
「いや、だって最近おれには素っ気ねぇじゃん」
「あいつとは何にもない。ただの友人だ。そもそも今日は……」
「最近の態度でその言葉は信じらんねぇよ」
僕を見ない誠也。誠也の背を見つめる僕。
苛立ち。焦り。
僕はそのようなつもりは決してない。寧ろ誠也に焦がれている。焦がれすぎているからこそ、この行動で。
「違う。本当にただの友人だ」
「それならおれにはお前の行動が理解できねぇ。乗り換えようとしてるとしか思えない」
「……なぜ。なぜそんなことを言うんだ。僕はこんなに、お前をっ……」
「わっかんねぇよ!!」
テーブルを叩く音がリビングに響く。誠也は勢いよく立ち上がった。だが振り返らない。
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