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Crush crush 3

誠也がここまで感情を露わにすることは初めてで、僕は思わず固まってしまう。 「お前いつも何も言わねぇだろ! 聞かれたら最低限の言葉で答える! それだけで自分の気持ちは全然言わねぇ! それなのに理解しろなんて無理があんだよ!」 「……せい」 「おれは頭なんかよくねぇ! だから何でも察することなんかできねぇんだ……!」 誠也の言葉は本心だ。そして真実。ゆえに僕の心に直接突き刺さる。 誠也の声音には怒り以上に悲しさが含まれていた。僕は自分の本心を告げられず、逃げて、逃げて、誠也を追い詰めていた。 やはり僕は使えない人間。駄目な人間だ。 「……っ」 誠也を傷つけてしまった自分に耐えられなかった。僕はカバンを床に捨て、リビングから駆け出る。 適当に靴をつっかけ、そのまま走り出す。 わからない。何もわからない。もうわからない。 でも僕が最低で、誠也を傷つけて。 それだけは、確かで。 どこへ向かうかなど考えていなかった。無我夢中で走るだけだった。 柄にもなく目の端が熱くなる。 そんな自分に更に苛立った。目元を強く擦る。 背後から足音は聞こえない。 それも当たり前だ。僕みたいな最低な人間を想い続けるほど、阿呆な人間はこの世にいない。 そもそも僕みたいな人間が生きていてはいけないのかもしれない。 だが生を諦めることはできようもなかった。 誠也。誠也。 誠也と、離れたくなかった。 それなのに今は、離れたかった。 馬鹿、みたいだ。 「あれ、柊?」 唇を強く噛んだ瞬間、僕に声がかかった。

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