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Crush crush 7

家に帰り着くとまっすぐリビングに連行された。誠也は僕をソファに座らせると、自身も隣に座る。 「怒鳴って悪かった」 そして第一声を発したのはやはり誠也。いつだって僕にきっかけをくれる。 「……その原因を作ったのは僕だ。すまない」 「過ぎたことだし、とはまだ言えねぇのが本音。結局お前は何を悩んでたんだよ」 「一つ先に言いたい。僕が誠也に抱く気持ちは、今も、昔も、変わらない」 「……おう」 お互い視線を合わせずぽつりぽつりと会話していく。 狂ってしまった歯車を見つけ、戻し、また回す。丁寧に、ゆっくりと。 だからまだ隣を見てはならない。 「……僕は、焦っていたんだ。二人で暮らすようになって、誠也は怒る回数が減った。料理もやるようになった。お金の面も誠也ばかり。誠也だけが、どんどん変わっていく。ただでさえ僕より大人の誠也が、もっと大人になっていく」 「ああ」 「誠也は多くのものを僕にくれるのに、僕は誠也に何も与えられていない。だから一緒にいていいのか……わからなくなった」 「……だからおれを避けてあの友達と遊んでばかりいたのか」 誠也の問いにこくんと頷く。すると誠也は僕の肩に腕を回した。僕の頭は素直に誠也の肩に乗る。 手の温かさや力強さが大丈夫だと伝えてくれるようだった。奥底にたまった膿にほんの少しずつ、明るい色を注いでくれる。 「まぁ、そうだな……。おれが色々変わり過ぎたのが不安なら教えてやるよ。おれはお前と一緒に暮らせることに浮かれてたんだ」 「……うか、れ……?」 「ああ。家に帰れば柊がいる。それだけで怒る気なんかなくなるし、何かしてやりたくなる」 「……意味、わからない」 照れて意地を張っているのではない。本当にわからなかった。 なぜ僕が家にいるだけで誠也の苛立ちが消えるのだろうか。二人で暮らしているのだから、帰れば相手がいるのは当たり前だ。 疑問符で埋まる脳内。隣の誠也は溜め息。 「お前ってそういうとこは本当に馬鹿だよな」 そして心外な言葉を吐かれた。

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