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Crush crush 8
僕はまさかの言葉に逆に固まった。今の心持ちでは強気に言い返すこともままならない。
「お前はさ、おれと一緒にいたくねぇの?」
「……そんなことはない」
「だろ? だからそういうことなんだよ」
「……そういうこととはどういうことだ」
本当に理解できず、僕はまた疑問を口に出す。誠也はわざとらしく大きく大きく溜め息をついた。
少しイラっとした。
「柊はおれに何も与えていないとか言ってたけど、そもそもおれは柊といるだけでいいんだよ。柊がいれば十分。与えるとか与えられるとかいらねぇ」
「……でも、僕は価値のない人間だ。だから」
「おれの恋人をそうやって貶すんじゃねぇよ」
「なっ……自分のことを好きに表現して何が悪い。そもそも事実を言っているだけだ」
一緒にいるだけでいい。
わからない。
確かに僕はそれでいいかもしれない。だが誠也はそれでは損をするばかりだ。仕事で疲れた体に料理というさらなる疲労を足し、金銭面も自分ではなく僕に使うことになる。
そもそも僕は出来損ないだ。そんな僕と一緒にいるメリットは、ない。
「価値がないわけねぇだろ」
「僕は使えない人間なんだ」
「んじゃあ、お前なんで経済学部入ったんだよ?」
「……は? それは、颯太が法をやると言うから、僕は違う面を学んで九条の力に……」
「ほら。そういう立派なところがあるのに、なんで使えない人間なんだよ」
九条を支えていくのは僕にとって当たり前のことだ。だから効率的に知識をそれぞれ蓄えるのも当たり前だ。それのどこが立派なのか全く理解できない。
またも疑問ばかり抱いている僕を誠也は強く抱きしめた。相変わらず痛い。
でも、温かい。
「まあ、お前のその自己否定はおれが少しずつなおしてやる。とにかくおれは柊といたい。柊に何かしてやりたい。それだけだ」
「……誠也は、阿保だ」
「お前といられるなら阿保でもいいよ」
誠也の素直な言葉に僕は唇を強く噛んだ。
なぜこういう時はふざけない。
なぜこういう時は優しい言葉をかけてくる。
狡い。狡すぎる。僕より大人でありすぎる。
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